【第1話:コンビニ恋愛】街のホットステーションで惚っとする
2016/08/13
僕の名前は、山田隆(29歳)。赤坂の広告代理店で働く広告マン。
今朝、出勤前にコーヒーがふと飲みたくなり、赤坂見附のローソンへと立ち寄って以降、夕方の今まで全くと言っていいほど仕事が手につかない。
その理由は、ローソン赤坂見附店で働く筒井という女性店員に一目惚れしたから。ホットコーヒー1杯、たった100円しか支払わない僕に、筒井はレジカゴ満杯の優良顧客かのように優しく接してくれた。
コーヒーのフタを閉じる長くて綺麗な指。鞄で塞がった僕の左手を避け、右手にスティックシュガーとマドラーを差し出せる気遣い。アイスボックスの雪見だいふくよりも白く、もちもちとして肌。極めつけは、天使よりも天使すぎるあの笑顔。
「ありがとうございました」
この瞬間、僕は筒井に恋をした。店を出てから会社のデスクに着くまでの道のりを、僕は覚えていない。ただただ、
筒井とお近づきになりたい
このことだけを考え、朝から夕方の今までの時間を過ごしている。
どうすればコーヒーを買う客とコンビニ店員という関係から、彼氏と彼女という関係へと発展させることができるだろうか?9時から17時までの8時間。考えに考えた。
そして出した答えが、広告マンとして培った禁断のあのテクニックを用いるということ。そう…
AIDMAの法則
だ。AIDMA(アイドマ)とは、Attention(注意)のA、Interest(関心)のI、Desire(欲求)のD、Memory(記憶)のM、Action(行動)のAと、それぞれの頭文字を取った略称で、消費者がある商品を認知してから購入に至るまでのプロセスを意味する。
僕ら広告マンは、このAIDMAを基に広告戦略を立て、消費者を動かすことでクライアントに貢献する。本来、このAIDMAはクライアントのためにだけ使うものであり、男性が女性を口説くなど、素人への応用は業界のタブーとされている。しかし、このAIDMAを僕は筒井へと応用する。
雪見だいふくだけは譲れない
僕には2歳はなれた弟がいるが、小学生の時には雪見だいふくの取り合いでよく喧嘩をした。2つ入りの雪見だいふくを、1つも弟にあげなかったからだ。
大人になった今でも、雪見だいふくへの執着だけは変わらないようだ。
※続く